Eスコアの0.001 |
リオデジャネイロオリンピックの個人総合は、内村航平とオレグ・ベルニャイエフ(ウクライナ)の歴史に残る激闘となりました。その差は0.099という僅差であり、最終種目である鉄棒の着地を内村が止めたのに対し、ベルニャイエフは1歩動き、それが勝負を決しました。
・リオデジャネイロオリンピック:個人総合の結果
| FX | PH | SR | VT | PB | HB | Total | |
| 内村航平 | 15.766 | 14.900 | 14.733 | 15.566 | 15.600 | 15.800 | 92.365 |
| VERNIAIEV | 15.033 | 15.533 | 15.300 | 15.500 | 16.100 | 14.800 | 92.266 |
ベルニャイエフの鉄棒が0.1高い14.900であれば、内村を0.001上回っての金メダルであったわけですが、もしそうなっていれば大きな物議を醸していたかもしれません。それは、この0.001という数字が演技の減点によって生じるものではなく、Eスコアの端数処理によって発生するものだからです。
・もしベルニャイエフの鉄棒が14.900だったら…
| FX | PH | SR | VT | PB | HB | Total | |
| 内村航平 | 15.766 | 14.900 | 14.733 | 15.566 | 15.600 | 15.800 | 92.365 |
| VERNIAIEV | 15.033 | 15.533 | 15.300 | 15.500 | 16.100 | 14.900 | 92.366 |
Eスコアの算出方法についてはずいぶん以前に記事にしました。おさらいをしておくと、オリンピックや世界選手権においては、5人のE審判の最高点と最低点を除外し、3人のスコアの平均点がEスコアになります[1]。
[1] ここではRJ制の説明は割愛します。詳しくは上述の記事を参照してみてください。
各E審判の出すスコアは0.1単位ですが、それを3で割るため9.03333...のような割り切れない数字が生まれ、Eスコアは小数第4位を切り捨てて9.033のようになります。このため、6種目の合計得点を競う個人総合では0.001から最大で0.004も決定点が失われる可能性があると言えます。
ベルニャイエフの鉄棒を14.900とした上の例でEスコアの切り捨てを行わなければ、内村とベルニャイエフの合計得点は同じになります。
・もし得点の切り捨てをしなかったら…
| FX | PH | SR | VT | PB | HB | Total | |
| 内村航平 | 15.766... | 14.900 | 14.733... | 15.566... | 15.600 | 15.800 | 92.366... |
| VERNIAIEV | 15.033... | 15.533... | 15.300 | 15.500 | 16.100 | 14.900 | 92.366... |
もっと単純な例として以下のような個人総合の得点を考えてみましょう。
| FX | PH | SR | VT | PB | HB | Total | |
| A選手 | 15.000 | 15.000 | 15.000 | 15.000 | 15.000 | 15.000 | 90.000 |
| B選手 | 15.000 | 15.000 | 15.000 | 15.033 | 15.033 | 14.933 | 89.999 |
この場合、A選手が0.001差で勝利しますが、もしEスコアの切り捨てを行わなかったら両者の合計得点はともに90.000で同点です(0.999...と1はイコールです)。このように現在のEスコアの算出方法は演技の実施とは関係のないところで得点に差が生じる要素をはらんでいるのです。
2009年までE審判は6人だったため、Eスコアは必ず0.005単位の切りのいい数字でした。E審判が5人になったのは2010年からで、これはR審判2人を加えたRJ制を導入したためです。Eスコアを再び切りのいい数字にするにはE審判をさらに1人増やすなどする必要があり、簡単でないことは承知しています。もちろん、Eスコアを切り捨てずに決定点を出していくことも現実的ではないでしょう。
また、このような問題は今に始まったことではありません。10点満点時代にも端数処理された数字が決定点になっていましたし、2010年以降0.001の差で順位が決まっている例ももちろんあります。
しかしながら、もし4年に1度のオリンピックにおいて0.001の差でメダルが決まるようなことになれば、いくらルールで定められているとはいえ大きな議論を呼ぶことは間違いないでしょう。個人的には前々から気になってはいたのですが、このたびの個人総合の激闘を見てあらためて何とかならないものかと思った次第です。

