2013年 06月 14日
内村航平の2012年ロンドンオリンピック:団体決勝あん馬の採点について |
Judgement for UCHIMURA at 2012 Olympics TF PH
2012年のロンドンオリンピック:団体決勝。日本の最終種目あん馬の最終演技者、内村航平の終末技の採点をめぐり、抗議の末に辛くも銀メダルを獲得するというシーンがありました。修正されたDスコアにも疑問があるこの事象について、ここでまとめておきたいと思います。
まずはその内村の演技です。動画が埋め込みできないので、画像をクリックしてください。

地元イギリスチームに贈られる大歓声の中で演技を始めることになった内村は、順調に技を繰り出していきましたが、終末技でバランスを乱して崩れ落ちるように着地します。これを終末技なしと判定され、以下のような採点となりました。
D:5.4 (DV:3.4 + EGR:2.0)
E:8.066
Score:13.466
難度価値点は、難度の高い9技と終末技の合わせて10技の価値点の合計点であり、終末技を実施できなかった場合は、9技の難度のみが計上されます。さらに、これが大きいのですが終末技(グループV)の要求グループ点(0.5点)が得られなくなり、通常D難度の終末技(0.4点)を行っている内村は0.9もDスコアを下げてしまいました。
上位チームのスコアは以下のようになり、日本は4位とメダルを逃したかに思われました。内村が最終演技に臨む時点で中国に届かないことは確定していましたが、メダルを逃すとはまさかの結果です。
ここで日本が抗議に出ます。体操競技においては自チームのDスコアについて問合せが認められています(Eスコアについては一切認められません)。内村は終末技の局面においてシュテクリAから倒立に上げており、ここからバランスを崩したとしてもC難度の「DSA倒立下り」までは認められるべきであるという趣旨です。
ちなみに、このDスコアについての問合せには300USドルが必要と定められています。課金は、問合せが正しいと判定された場合は返却されることになっています。2011年の世界選手権・東京大会:種目別ゆかで内村のリ・ジョンソン(G)が新月面(E)と誤判定され、抗議の末に認定されたのは記憶に新しいところです。
この抗議が実際どうなのかというのは微妙なところです。確かに倒立には上がっていますが、しっかりと着地までしての終末技ですから、ここまでバランスを崩し馬体に対して横向きに下りてしまったものを終末技として認めるかはどうかは非常に悩ましいと思います。
10分以上に及ぶ審査の結果、内村の終末技は認められ、スコアは以下のように改められました。
D:6.1
E:8.066
Score:14.166
これにより団体決勝の最終スコアは以下のようになり、日本は銀メダルを獲得しました。地元イギリスは銀メダルから銅メダルとなり場内は大ブーイング。一度は銅メダルと表示されたウクライナは4位となってしまいました。
ここで理解しがたいのは内村のDスコアが0.7アップして6.1になっていることです。終末技がC難度で認められたとすれば、C難度の0.3と要求グループ点の0.3で0.6のアップとなり、正しいDスコアは6.0となるはずです。
D:6.0 ? (DV:3.7 + EGR:2.3)
E:8.066
Score:14.066 ?
6.1というDスコアには誰も異議を唱えず、最終スコアはこれで確定しました。0.1の変動では順位に影響はないものの、今ひとつ釈然としない結果ではあります。そもそもこの抗議自体、平凡な選手の演技であれば相手にされたかどうか微妙なところです。世界王者内村の演技だから、という要素は審判の頭の中に間違いなくあったことでしょう。
審判も間違いを犯す人間であり、採点競技にこのような誤りは付き物ではあります。しかし、多くの人々の注目を集めるオリンピックにおいては、一つの間違いがあまりにも大きな影響を与えてしまいます。過去には2004年アテネオリンピック:個人総合における誤審や、種目別鉄棒における得点訂正などが問題となりました。
今回のような出来事は、観戦しているファンにとってただでさえ分かりにくいと思われる「採点競技」というものに対する関心を失わせてしまうことにつながりかねません。また、今回のイギリスやウクライナのように、一度はメダル獲得と結果が表示されながらの訂正は無用な軋轢を生みだすことになってしまいます。
このような「後味の悪い展開」を二度と起こさないため、審判が正確な採点をしなければならないのはもちろんですが、選手もまた正確な演技に努めなければなりません。この正確さこそが採点競技たる体操の命であり、審判、選手、コーチといったあらゆる競技関係者は最大限の力を持ってこれを追求していかなければならないと思います。
2012年のロンドンオリンピック:団体決勝。日本の最終種目あん馬の最終演技者、内村航平の終末技の採点をめぐり、抗議の末に辛くも銀メダルを獲得するというシーンがありました。修正されたDスコアにも疑問があるこの事象について、ここでまとめておきたいと思います。
まずはその内村の演技です。動画が埋め込みできないので、画像をクリックしてください。

| 技名 | 難度 | グループ | 価値点 | |
| 1. | 逆交差倒立 | D | I | 0.4 |
| 2. | Eフロップ | E | IV | 0.5 |
| 3. | Dコンバイン | D | IV | 0.4 |
| 4. | ロス | D | IV | 0.4 |
| 5. | ウ・グォニアン | E | IV | 0.5 |
| 6. | マジャール | D | III | 0.4 |
| 7. | シバド | D | III | 0.4 |
| 8. | 一把手上縦向き旋回 | B | II | 0.2 |
| 9. | 縦向き後ろ移動(2/3) | B | III | 0.2 |
| 10. | 〈終末技なし〉 |
D:5.4 (DV:3.4 + EGR:2.0)
E:8.066
Score:13.466
難度価値点は、難度の高い9技と終末技の合わせて10技の価値点の合計点であり、終末技を実施できなかった場合は、9技の難度のみが計上されます。さらに、これが大きいのですが終末技(グループV)の要求グループ点(0.5点)が得られなくなり、通常D難度の終末技(0.4点)を行っている内村は0.9もDスコアを下げてしまいました。
上位チームのスコアは以下のようになり、日本は4位とメダルを逃したかに思われました。内村が最終演技に臨む時点で中国に届かないことは確定していましたが、メダルを逃すとはまさかの結果です。
| CHN | 275.997 |
| GBR | 271.711 |
| UKR | 271.526 |
| 4 JPN | 271.252 |
ここで日本が抗議に出ます。体操競技においては自チームのDスコアについて問合せが認められています(Eスコアについては一切認められません)。内村は終末技の局面においてシュテクリAから倒立に上げており、ここからバランスを崩したとしてもC難度の「DSA倒立下り」までは認められるべきであるという趣旨です。
ちなみに、このDスコアについての問合せには300USドルが必要と定められています。課金は、問合せが正しいと判定された場合は返却されることになっています。2011年の世界選手権・東京大会:種目別ゆかで内村のリ・ジョンソン(G)が新月面(E)と誤判定され、抗議の末に認定されたのは記憶に新しいところです。
この抗議が実際どうなのかというのは微妙なところです。確かに倒立には上がっていますが、しっかりと着地までしての終末技ですから、ここまでバランスを崩し馬体に対して横向きに下りてしまったものを終末技として認めるかはどうかは非常に悩ましいと思います。
10分以上に及ぶ審査の結果、内村の終末技は認められ、スコアは以下のように改められました。
D:6.1
E:8.066
Score:14.166
これにより団体決勝の最終スコアは以下のようになり、日本は銀メダルを獲得しました。地元イギリスは銀メダルから銅メダルとなり場内は大ブーイング。一度は銅メダルと表示されたウクライナは4位となってしまいました。
| CHN | 275.997 |
| JPN | 271.952 |
| GBR | 271.711 |
| 4 UKR | 271.526 |
ここで理解しがたいのは内村のDスコアが0.7アップして6.1になっていることです。終末技がC難度で認められたとすれば、C難度の0.3と要求グループ点の0.3で0.6のアップとなり、正しいDスコアは6.0となるはずです。
| 技名 | 難度 | グループ | 価値点 | |
| 1. | 逆交差倒立 | D | I | 0.4 |
| 2. | Eフロップ | E | IV | 0.5 |
| 3. | Dコンバイン | D | IV | 0.4 |
| 4. | ロス | D | IV | 0.4 |
| 5. | ウ・グォニアン | E | IV | 0.5 |
| 6. | マジャール | D | III | 0.4 |
| 7. | シバド | D | III | 0.4 |
| 8. | 一把手上縦向き旋回 | B | II | 0.2 |
| 9. | 縦向き後ろ移動(2/3) | B | III | 0.2 |
| 10. | DSA倒立下り | C | V | 0.3 |
D:6.0 ? (DV:3.7 + EGR:2.3)
E:8.066
Score:14.066 ?
6.1というDスコアには誰も異議を唱えず、最終スコアはこれで確定しました。0.1の変動では順位に影響はないものの、今ひとつ釈然としない結果ではあります。そもそもこの抗議自体、平凡な選手の演技であれば相手にされたかどうか微妙なところです。世界王者内村の演技だから、という要素は審判の頭の中に間違いなくあったことでしょう。
審判も間違いを犯す人間であり、採点競技にこのような誤りは付き物ではあります。しかし、多くの人々の注目を集めるオリンピックにおいては、一つの間違いがあまりにも大きな影響を与えてしまいます。過去には2004年アテネオリンピック:個人総合における誤審や、種目別鉄棒における得点訂正などが問題となりました。
今回のような出来事は、観戦しているファンにとってただでさえ分かりにくいと思われる「採点競技」というものに対する関心を失わせてしまうことにつながりかねません。また、今回のイギリスやウクライナのように、一度はメダル獲得と結果が表示されながらの訂正は無用な軋轢を生みだすことになってしまいます。
このような「後味の悪い展開」を二度と起こさないため、審判が正確な採点をしなければならないのはもちろんですが、選手もまた正確な演技に努めなければなりません。この正確さこそが採点競技たる体操の命であり、審判、選手、コーチといったあらゆる競技関係者は最大限の力を持ってこれを追求していかなければならないと思います。
by kaki_aqr
| 2013-06-14 21:00
| あん馬 PH
|
Comments(2)
>審判が正確な採点をしなければならないのはもちろんですが、選手もまた正確な演技に努めなければなりません
これはまさにその通りですね。
内村選手含む日本代表が銀メダルを獲得したことについては特に異論はありませんが、中には違和感を感じた人もいると思います。
現に「日本人なら潔く失敗を認めろ」なんていう人もいるくらいですし。
しかしこの得点差、中国は仕方ないとしても地力では明らかに優っているであろうイギリスとの差がこれほどしかないのはちょっとあれですね。
日本人は基本的にメンタルが弱いと思うのでそこの改善が大切ですね。
これはまさにその通りですね。
内村選手含む日本代表が銀メダルを獲得したことについては特に異論はありませんが、中には違和感を感じた人もいると思います。
現に「日本人なら潔く失敗を認めろ」なんていう人もいるくらいですし。
しかしこの得点差、中国は仕方ないとしても地力では明らかに優っているであろうイギリスとの差がこれほどしかないのはちょっとあれですね。
日本人は基本的にメンタルが弱いと思うのでそこの改善が大切ですね。
>現に「日本人なら潔く失敗を認めろ」なんていう人もいるくらいですし。
みたいな議論がどうしても出てしまうから、こういう展開は避けたいんですよね。あと、「だから採点競技は」みたいに見られてしまうのもすごく辛いところです。
地元とはいえイギリスの躍進には驚きましたね。
みたいな議論がどうしても出てしまうから、こういう展開は避けたいんですよね。あと、「だから採点競技は」みたいに見られてしまうのもすごく辛いところです。
地元とはいえイギリスの躍進には驚きましたね。

