2014年 04月 15日
ヤマワキ(伸身コスミック)について |
Yamawaki on HB
鉄棒のヤマワキ(D)は多くの選手によって実施されている手放し技です。特に組合せ加点が得られるアドラー1回ひねりからの連続は、現在の加点ルールが定められた2006年以降非常に多くの選手が演技に取り入れています。
ヤマワキは通称「伸身コスミック」とも呼ばれる技ですが、これだけ多くの選手が行ってくると腰の曲がった怪しげな実施も目につきます。伸身の定義について以前にも書いたとおり、腰の角度が45°未満であれば(減点はされますが)伸身で認定されますが、それ以上に曲がっているのではと思われる実施を見るのもしばしばです。
しかし、採点規則ではヤマワキは「閉脚マルケロフ」と表記され、マルケロフ(C)は「後ろ振り上がり開脚とび越しひねり懸垂」という技です。つまりヤマワキは「後ろ振り上がり閉脚とび越しひねり懸垂」ということになります。いったいどこに伸身と書いてあるのでしょう。ヤマワキは伸身でなくてもいいのでしょうか。
英語版Code of Pointsを確認してみましょう。ヤマワキは
・Markerov with legs together
で日本語版もそのままの訳であることが分かります。そしてマルケロフですが
・Back uprise and straddle hecht with 1/2t. to hang
となっています。この"hecht"は英語版でもそのまま使われているようですが、元々はドイツ語で「伸身とび越し」のことです。現実的にマルケロフの実施が開脚伸身で行われているかは微妙なところですが、ともあれヤマワキは閉脚伸身でとび越さなければならない技と考えることができます。
ヤマワキ Yamawaki
マルケロフ Markerov
なお、コスミックとはボローニン(後ろ振り上がり屈身ひねりとび越し懸垂)(B)の通称です。宇宙開発競争時代真っ只中の1966年に旧ソビエト連邦のミハイル・ボローニンが発表した技で、宇宙遊泳のような動きから日本ではこう呼ばれるようになりました。ドイツ語で「屈身とび越し」は"Bücke"というため、ボローニン・ビュッケと呼ばれることもありますね。下向きにとび越す技なので、ヤマワキのことを伸身コスミックと表現するのは厳密に言えば正確ではないのかもしれません。
ボローニン Voronin
ちなみにヤマワキの発展技を見てみると、ヤマワキ1回ひねりであるウェルストロム(E)は
・Back uprise and hecht with 3/2t. to hang
で「後ろ振り上がり伸身とび越し3/2ひねり懸垂」となっており、適切な表現となっています。しかし、ヤマワキひねりのムニョス/ポッツォ(E)は
・Yamawaki 1/2t. stretched to mixed grip into back uprise to hdst.
で、なんと"Yamawaki"に"stretched"が付くというおかしなことになっています。日本語は「ヤマワキひねり片大逆手後ろ振り倒立」で、わざわざ「伸身」を余分に付けるようなことにはなっていません。
日本体操協会の『男子体操競技情報』などではこれまでヤマワキについて「上昇の仕方、腰のまがり具合、下向き転向の度合いを総合的に判断する」などと煮え切らない説明がされていましたが、この3月にFIGが発行したNewsletter#27とその内容を受けた『情報21号』でやっと「伸身で身体が垂直にバーを越えなければならない」と明記されました。一方で、過度の腰の曲がりや不完全な体勢は減点あるいはB難度と判定される場合があるとしており、今後も実際のところはあまり変化がなさそうな感じです。
このB難度判定というところにも問題があるような気がします。「屈身マルケロフ」に該当する技が難度表に存在しないためですが、明らかな下向き転向でない限りボローニンと判定してしまうのには抵抗を感じるでしょうし、同じくB難度の「後ろ振り上がり上向きとび越し懸垂」もとび越しというよりは上向き転向のような技で、ちょっと違う感じです。
思い切ってマルケロフも、トカチェフ(C)やイエーガー(C)のように「開脚or屈身」という扱いにして、屈身マルケロフはC難度にしてしまうのも一案かもしれません。まぁ現実的には怪しげな伸身トカチェフがC難度で判定されることも滅多にないので、これもあまり現状と変わりはないかもしれませんが。
後ろ振り上がり上向きとび越し懸垂 Raer Vault
最後に、伸身がよく表現されているヤマワキを見ておきましょう。いいヤマワキを行う選手は何人かいるかと思われますが、個人的には田中和仁のこの実施でしょうか。一瞬ですが、体が反った局面まで見せています。
鉄棒のヤマワキ(D)は多くの選手によって実施されている手放し技です。特に組合せ加点が得られるアドラー1回ひねりからの連続は、現在の加点ルールが定められた2006年以降非常に多くの選手が演技に取り入れています。
ヤマワキは通称「伸身コスミック」とも呼ばれる技ですが、これだけ多くの選手が行ってくると腰の曲がった怪しげな実施も目につきます。伸身の定義について以前にも書いたとおり、腰の角度が45°未満であれば(減点はされますが)伸身で認定されますが、それ以上に曲がっているのではと思われる実施を見るのもしばしばです。
しかし、採点規則ではヤマワキは「閉脚マルケロフ」と表記され、マルケロフ(C)は「後ろ振り上がり開脚とび越しひねり懸垂」という技です。つまりヤマワキは「後ろ振り上がり閉脚とび越しひねり懸垂」ということになります。いったいどこに伸身と書いてあるのでしょう。ヤマワキは伸身でなくてもいいのでしょうか。
英語版Code of Pointsを確認してみましょう。ヤマワキは
・Markerov with legs together
で日本語版もそのままの訳であることが分かります。そしてマルケロフですが
・Back uprise and straddle hecht with 1/2t. to hang
となっています。この"hecht"は英語版でもそのまま使われているようですが、元々はドイツ語で「伸身とび越し」のことです。現実的にマルケロフの実施が開脚伸身で行われているかは微妙なところですが、ともあれヤマワキは閉脚伸身でとび越さなければならない技と考えることができます。
ヤマワキ Yamawaki
マルケロフ Markerov
なお、コスミックとはボローニン(後ろ振り上がり屈身ひねりとび越し懸垂)(B)の通称です。宇宙開発競争時代真っ只中の1966年に旧ソビエト連邦のミハイル・ボローニンが発表した技で、宇宙遊泳のような動きから日本ではこう呼ばれるようになりました。ドイツ語で「屈身とび越し」は"Bücke"というため、ボローニン・ビュッケと呼ばれることもありますね。下向きにとび越す技なので、ヤマワキのことを伸身コスミックと表現するのは厳密に言えば正確ではないのかもしれません。
ボローニン Voronin
ちなみにヤマワキの発展技を見てみると、ヤマワキ1回ひねりであるウェルストロム(E)は
・Back uprise and hecht with 3/2t. to hang
で「後ろ振り上がり伸身とび越し3/2ひねり懸垂」となっており、適切な表現となっています。しかし、ヤマワキひねりのムニョス/ポッツォ(E)は
・Yamawaki 1/2t. stretched to mixed grip into back uprise to hdst.
で、なんと"Yamawaki"に"stretched"が付くというおかしなことになっています。日本語は「ヤマワキひねり片大逆手後ろ振り倒立」で、わざわざ「伸身」を余分に付けるようなことにはなっていません。
日本体操協会の『男子体操競技情報』などではこれまでヤマワキについて「上昇の仕方、腰のまがり具合、下向き転向の度合いを総合的に判断する」などと煮え切らない説明がされていましたが、この3月にFIGが発行したNewsletter#27とその内容を受けた『情報21号』でやっと「伸身で身体が垂直にバーを越えなければならない」と明記されました。一方で、過度の腰の曲がりや不完全な体勢は減点あるいはB難度と判定される場合があるとしており、今後も実際のところはあまり変化がなさそうな感じです。
このB難度判定というところにも問題があるような気がします。「屈身マルケロフ」に該当する技が難度表に存在しないためですが、明らかな下向き転向でない限りボローニンと判定してしまうのには抵抗を感じるでしょうし、同じくB難度の「後ろ振り上がり上向きとび越し懸垂」もとび越しというよりは上向き転向のような技で、ちょっと違う感じです。
思い切ってマルケロフも、トカチェフ(C)やイエーガー(C)のように「開脚or屈身」という扱いにして、屈身マルケロフはC難度にしてしまうのも一案かもしれません。まぁ現実的には怪しげな伸身トカチェフがC難度で判定されることも滅多にないので、これもあまり現状と変わりはないかもしれませんが。
後ろ振り上がり上向きとび越し懸垂 Raer Vault
最後に、伸身がよく表現されているヤマワキを見ておきましょう。いいヤマワキを行う選手は何人かいるかと思われますが、個人的には田中和仁のこの実施でしょうか。一瞬ですが、体が反った局面まで見せています。
by kaki_aqr
| 2014-04-15 21:00
| 鉄棒 HB
|
Comments(6)
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by
名無しのSさん
at 2014-04-15 21:26
x
もうご存知かもしれませんが
https://www.youtube.com/watch?v=falCrZ-Bths
https://www.youtube.com/watch?v=falCrZ-Bths
このビデオは最初が面白いです(笑)。タマヨのこのヤマワキはすごい高さですよね。
Commented
by
伸身ローチェ
at 2014-04-15 23:16
x
ヤマワキのすぐ下に位置する技のひとつがボローニンでB難度なのはなにか突然な気もしていたのですが、いろいろ事情があるのですね。
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by
たんたら
at 2014-04-16 00:37
x
「伸身で身体が垂直にバーを越えなければならない」のところなのですが、プリンシピ選手のこのウェルストロムの実施はどう扱うのでしょうね?
バーに水平になってしまっているように見えますが…
https://www.youtube.com/watch?v=Cgp4gUweQng
バーに水平になってしまっているように見えますが…
https://www.youtube.com/watch?v=Cgp4gUweQng
>伸身ローチェさん
確かにDからBへ2段階も落ちるのは唐突ですよね。さらに組合せ加点もなくなったりするので、判定としては慎重にならざるを得ない面もあるかと思います。
確かにDからBへ2段階も落ちるのは唐突ですよね。さらに組合せ加点もなくなったりするので、判定としては慎重にならざるを得ない面もあるかと思います。
>たんたらさん
この大会では認定されているようですが、これはかなり逸脱していますね。もはや別の技です。結局、こういう実施に対する今回の通達なんだろうと思います。今後は認定されない可能性もあるのではないでしょうか。
この大会では認定されているようですが、これはかなり逸脱していますね。もはや別の技です。結局、こういう実施に対する今回の通達なんだろうと思います。今後は認定されない可能性もあるのではないでしょうか。