あん馬の見方:3.フロップとコンバイン |
3.Flop Rules
「あん馬の見方」と題して以下の4回に分けて説明しています。
1.あん馬の基礎知識
2.技のグループ
3.フロップとコンバイン
4.旋回倒立技の格上げルール
第3回はフロップとコンバイン。あん馬の特別なルールとして、1ポメル上での旋回を組合わせたフロップやコンバインといった技を規定するフロップルールがあります。
フロップやコンバインを理解するためには、まずこれを構成する要素であるループ(一把手上縦向き旋回)とシュテクリA/B、ロシアン転向を理解する必要があります。
ループは本来、単なる縦向き旋回のことですが、フロップルールにおいてはB難度である1ポメル上での縦向き旋回のことを指します。下の図の一番上の
・縦向き支持から1周旋回しての縦向き支持
が基本であり、これだけならそれほど分かりにくい要素ではありませんが、くせ者なのは前または後に1/4転向を伴っていてもループとして扱われること。つまり、
・横向き支持から1/4転向しつつ1周旋回しての縦向き支持
・縦向き支持から1周旋回しつつ1/4転向しての横向き支持
もループとなります。
ループ(一把手上縦向き旋回) Pommel Loop
シュテクリA/Bは基本的に横向き支持から始まり横向き支持で終わる転向技です。横向き支持から上向きで1/4正転向をし、1ポメル上での縦向き背面支持を経て、下向きで1/4逆転向をして最初の横向き支持とは反対向きの横向き支持となります。つまりシュテクリA/Bを完成させると1周半旋回して体の向きが変わることになります。AとBの違いは最後に横向き支持になったときの体勢で決まります。最後の横向き支持が、
・シュテクリA | 両ポメル上 または 片手がポメルで片手が馬端 |
・シュテクリB | 1ポメル上 |
[1] フロップルールには関係ありませんが、あん部馬背で回すシュテクリA/Bもあり、片手があん部で片手が馬端の場合シュテクリA、両手があん部馬背の場合がシュテクリBとなります。
シュテクリB DSB (Direct Stöckli B)
ロシアン転向は分かりやすいので問題ないでしょう。1ポメル上で行う場合は180°以上でB難度、360°以上でC難度、720°以上でD難度、1080°以上でE難度となりますが、単独技としての実施はあまり見かけません。コンバインのためにあるような技と言っていいと思います。開始と終了は横向き支持でも縦向き支持でも構いませんが、コンバインにおいては横向き支持から始められるのが通常のようです。
一把手上ロシアン180°転向 Pommel Russian 180
一把手上ロシアン360°転向 Pommel Russian 360
やっと本題です。フロップとコンバインはこれら1ポメル上のループとシュテクリB、そしてロシアン転向を組合せて連続で実施することにより高い難度を得ることができるものです。あん馬という種目は元々高難度の技があまり多くなく、今日Dスコアを高めていく上でフロップやコンバインは必須の要素となっています。一方、小さなポメルの上だけで旋回を連続するには高度で安定した技術が必要となります。フロップルールにおいてはループをL、シュテクリBをSで表し、ロシアン転向は度数も含めてR180やR360などと表記します[2]。
[2] シュテクリBはBで表わされることもあります。また、ロシアン転向は度数を短縮してR18やR36などと表記することもあります。
ループとシュテクリBは連続して行われると見極めが難しいときがありますが、個々の旋回の最初と最後の正面支持の向きに注目すると区別しやすいでしょう。横向きで始まり横向きで終わる場合はシュテクリBで、それ以外はループと考えて問題ありません。ただし、非常にややこしいことに馬端からポメルへの縦向き前移動から転向した場合はシュテクリBとみなされ、フロップやコンバインの開始技となりえます。
フロップはループとシュテクリBの組合せです。3つ組合わせるとD難度(Dフロップ)、4つ組合わせるとE難度(Eフロップ)となります[3]。CフロップやFフロップはありません。フロップルールでは同じ技を3回続けて行うことはできないという制限があります。すなわち、LLLSのような実施はEフロップとして認められません(B難度+無効+無効+B難度となります)。SLLLの場合はSLLでDフロップまで認められ、3回目のLが無効となります。また、SLSは実質SSSの動きになってしまうため不可です。したがってEフロップとして有効なのはSSLL、LLSS、SLLS、LSSL、LSLLなどのような実施となります。
[3] ほとんど見ることができませんが、開脚旋回でのフロップは1段階格上げとなります。3つでE難度、4つでF難度となります。
よく見られるSSLLのEフロップを図にするとこんな感じになります。
・シュテクリB | 縦向き前移動から転向して横向き支持 |
・シュテクリB | 横向き支持から転向して横向き支持 |
・ループ | 横向き支持から1/4転向し旋回して縦向き支持 |
・ループ | 縦向き支持から旋回して1/4転向し横向き支持 |
Eフロップ 4 Flops
実際の演技を見てみましょう。まずは2008年北京オリンピック金メダルの肖欽(中国)。上の図と同じパターンのSSLLのEフロップです。
クロアチアのロベルト・セリグマンはLLSLのEフロップです。前移動からループに入りますが、この場合はシュテクリBとみなす場合とは異なり、完全に1ポメル上に移動して正面支持になったところからループとして数え始めます。最後にループをもう1周回してB難度を取っているので、全体としてはLLSLLの動きになっています。
コンバインはループやシュテクリBに1ポメル上のロシアン転向を組合せたものです。フロップはE難度まででしたが、コンバインはロシアン転向を回すことにより最高のG難度まで難度を上げることができます。組合せによる難度は以下のとおり。
1フロップ | + | R180 | R360 | R720 | R1080 |
D | E | F | |||
---|---|---|---|---|---|
2フロップ | + | R180 | R360 | R720 | R1080 |
D | E | F | G |
よく見られるのは2フロップ+R180のDコンバイン、2フロップ+R360のEコンバインです。FコンバインやGコンバインともなると一握りのトップ選手のみの領域となります。1フロップ+R180に難度が書いてありませんが、Cコンバインは無いのでB+Bになります。通常、ロシアン転向は組合せの最後に実施されますが、ルール上はロシアン転向の後にループやシュテクリBを組合わせてもいいことになっています(これもまず見かけない実施ですが)。
Eコンバインの一例としてSSR360の図を示します。
・シュテクリB | 横向き支持から転向して横向き支持 |
・シュテクリB | 横向き支持から転向して横向き支持 |
・ロシアン360°転向 | 横向き支持からロシアン360°転向 |
Eコンバイン 2 Flops + R360
日本で初めて世界選手権のあん馬で優勝した名手、鹿島丈博のEコンバイン。上の図と同じSSR360ですが、鹿島は右旋回なので図とは逆の動きになっています。2008年北京オリンピック:団体決勝での演技。
中国、張宏涛の完璧なFコンバイン。SSR720です。体はまっすぐ、足先まで一糸乱れぬロシアン転向が素晴らしい。
フロップとコンバインはそれぞれ一つの技として扱われ、演技の中で1回ずつ実施することができます。したがってEフロップを行ってDフロップというのは認められません。一方、フロップを行って、さらにB難度を得るためにループやシュテクリA/Bを単独で行うことは可能です。フロップとコンバインは続けて実施することができ、SSLLSSR180のような実施はEフロップとDコンバインになります。もちろんこれらの場合も同一技3回連続の制限がかかります。
フロップとコンバインを続けて行っている実施を見てみます。内村航平はSLLSLLR180でEフロップとDコンバインを連続します。
あん馬の強国ハンガリーから世界選手権とオリンピックを合わせて3連覇中のベルキ・クリスティアン。LSLLSSR360でEフロップとEコンバインを実施しています。
フロップルールは1997年のルール改訂で定められたものです。それ以前は個々の1ポメル上の技の組合せにいちいち難度が設定されていたようで、例えばシュテクリBの3回連続がニコライ(D)という技になっていたりしたのですが、それらが整理されたものと考えられます。当時は加点技の繰り返しが1回に限り認められており、同一技の3回連続の制限もループに限られていたため、シュテクリBの8回連続(Eフロップ+Eフロップ)なんていう実施が見られたりもしました。
ただこればかりは何度か演技を見て慣れるしかありませんね。
フロップに関してはシュテクリが分かると一気に理解が進むと思います。
本当にありがとうございます!
質問すみません!!
セリグマン選手のフロップの捌き方に関連することなのですが
ミクラック選手のこれはL~R18になってDコンバインにはならないということでよろしいのでしょうか?
http://www.youtube.com/watch?v=D34JaKdV5jY
この場合は向き支持から
で見るんですね!!ありがとうございます!!
ぼくには縦向き支持に見えたので前移動?であってるのかが入ってそれからLR180かと思いました(あん馬のことはよく分からん)
こういったあいまいな姿勢の場合(この場合は方向か)、減点されたりするんでしょうか?
またその場合どれくらい減点されるんでしょうか?
この選手の場合はそうでもないですが、割かし見られるマジャール移動、シバド移動での傾き(ちゃんと縦向きになっていないもの)に対する減点も気になります(どれくらい引かれるのか?)
これ良く見たらシュテクリAじゃなくてBですね(ちゃんと1ポメル上に両手が乗っている)
縦向き旋回や移動は、15°~30°の逸脱が0.1、~45°が0.3、45°を超えると0.5で不認定ということになっています。